「ガンに生かされて」(飯島夏樹)

健全な精神は、健全な肉体に宿る

「ガンに生かされて」(飯島夏樹)
 新潮文庫

プロ・ウインド・サーファーの
飯島夏樹さんが逝かれてから、
早いものですでに15年になります。
当時、ネット上に掲載された
エッセイを読みながら
「なんてすごい人なんだ」と
感慨にふけっていたことを
想い出します。

当時私は、道徳の授業で、
生命の大切さを子どもたちに
伝えるための資料として
(道徳の副読本に載っている
「いかにも」というような資料でなく)、
子どもたちの心に響くような
新聞記事や詩、映像作品等を
研究・収集していました。
そのときに巡り会ったのが
飯島夏樹さんの闘病生活を綴った
ウェブ・エッセイ
「今日も生かされてます」でした。

末期ガンを宣告されながらも、
恨み言を述べるのでもなく、
きわめて明るく、かつ飾ることなく、
だからこそ生々しい闘病の実態にふれ、
資料化をすることもできないまま、
ただただ圧倒されていました。
死を目の前にしているのに、
なぜこのように前向きに
生きていられるのだろうかと
思いながら。

ガンで亡くなる人の多くは、
無念な気持ちで逝くのではないかと
想像します。
その中で、最後まで
前向きに生きようとした
飯島さんの姿には感銘を受けました。
飯島さんは
ワールドカップをはじめとする
数々の大会で活躍した、日本人最高の
プロウインドサーファーです。
本書のカバー写真に写る姿も
日に焼けた筋肉質で、
いかにもアウトドアの人間です。
「健全な精神は、健全な肉体に宿る」と
いわれますが、
まさにその通りなのでしょう。

本書はその「今日も生かされてます」を
編集し、出版されたものです。
おりにふれて
何度か部分的に読み返していますが、
そのたびに考えてしまいます。
ガンになっても自分は飯島さんのように
毅然としていられるだろうかと。
インドアな人間である私は、
体を鍛えるのでもなく、
いやむしろ体を動かすのが嫌いで、
いつも考え込んでしまうタイプです。
健全とはいいかねる肉体だから、
宿っているのは
不健全な精神なんだろうか…。
もしも病にかかったとしても、
せめて飯島さんの10分の1でもいいから
明るく前向きに
頑張りたいと思っています。

中学生にぜひ薦めたい一冊です。
生きるということはどんなことなのか。
人の死がどんどん
身近でなくなってしまった現代では
貴重な一冊だと思われるのです。
死を考えて
ネガティブになるのではなく、
死を理解しながら
ポジティブかつアクティブに
生きていければと願っています。

(2020.6.12)

PexelsによるPixabayからの画像

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